マニュアルの作り方
マニュアル作成のコツ|上手い人がやっていることと、書き方の直し方【見本つき】
榎本 諒 ・ 更新 2026-10-14 ・ 約29分で読めます
マニュアルを作ってと頼まれた。作り始めたものの、思ったより進まない。やっとできたのに、読んだ人から同じ質問が来る。
マニュアル作りでつまずく所は、だいたい決まっています。つまずく所が決まっているので、コツも決まっています。
この記事では、マニュアル作成のコツを「作る前」「書くとき」「仕上げ」「配ったあと」の4つの段階に分けて説明します。文章の書き方は、直す前と直したあとを並べて見せます。よくある失敗の直し方、かかる時間の見積もり方、何で作るかも入れました。

マニュアル作りが大変な理由
コツの前に、なぜ大変なのかを分けておきます。理由が分かると、どのコツが自分に効くのかが選べます。

知っている人ほど、書くことが見えない
その仕事に慣れた人は、手順を考えずにやっています。考えずにやっていることは、書き出そうとしても出てきません。「画面を下にスクロールする」「先に日付を確かめる」のような動作が抜けます。
書いた本人は抜けに気づけません。読み返しても、頭が勝手に補ってしまうからです。
手作業が多い
画面のあるマニュアルは、1ステップごとに「画面を撮る」「資料に貼る」「押す場所に印を付ける」「説明の文を書く」の4つをやります。ステップが20あれば、4つを20回くり返します。考える時間より、手を動かす時間のほうが長くなります。
終わりが見えない
どこまで細かく書くのか。例外はどこまで載せるのか。決めないまま始めると、書くほど足りない所が見つかります。完成の線が無いので、いつまでも出せません。
作っても読まれない
時間をかけて作ったのに、質問は口で来る。これが続くと、次のマニュアルを作る気がなくなります。読まれないのは中身より、置き場所と長さと古さが理由のことが多いです。
4つの理由に、それぞれ打つ手があります。
| 大変な理由 | 効くコツ | この記事の章 |
|---|---|---|
| 書くことが見えない | 操作しながら書く。別の人に試してもらう | 上手い人がやっていること・仕上げ |
| 手作業が多い | 型を先に決める。道具に任せる | 作る前・道具に任せる |
| 終わりが見えない | 読む人と範囲と期限を先に決める | 作る前 |
| 読まれない | 短く分ける。置き場所を1つにする | 配ったあと |
マニュアル作りが上手い人がやっていること
上手い人の特徴として、よく「伝える力がある」「物事を整理して考えられる」「仕事をよく知っている」の3つが挙げられます。どれも当たっています。ただ、能力として言われても真似ができません。
やっていることに置き換えると、真似できる形になります。

1. 読む人を1人に決めている
「全員に分かるように」では、書き方が決まりません。上手い人は、顔が浮かぶ1人を決めています。「来月入ってくる、パソコンは使えるがこのシステムははじめての人」のようにです。
1人に決めると、どこから書くか、どの言葉に説明が要るかが自動で決まります。伝える力の正体は、相手を決めていることです。
2. 仕事を「動作」まで分けている
「請求書を出す」は仕事の名前で、動作ではありません。上手い人は「請求ソフトを開く」「取引先を選ぶ」「金額を入力する」「発行するを押す」まで分けます。
分ける目安は、その1行を読んだ人が、迷わず手を動かせるかです。動かせないなら、まだ分けられます。整理して考える力は、ここで使われています。
3. 思い出して書かず、やりながら書いている
机で思い出しながら書くと、手順が抜けます。上手い人は、実際にその作業をやりながら、1つ動くたびに書き留めます。画面の操作なら、操作しながらスクリーンショットを撮ります。
仕事をよく知っている人ほど、ここを省きがちです。知っているから思い出せる、と考えてしまうからです。
4. 「なぜ」と「どこまで」を書いている
手順だけのマニュアルは、いつもと違うことが起きた瞬間に役に立たなくなります。上手い人は、理由と判断の基準を添えます。
- 理由:「締め日を過ぎると修正できないので、ここで金額を確かめます」
- 判断の基準:「10万円以上なら部長の承認が要ります。未満なら課長で足ります」
この2つは、ベテランの頭の中にしかない情報です。書き出す価値がいちばん高い所でもあります。
5. 出す前に、必ず人に試してもらっている
自分で読み返すのではなく、その作業をやったことがない人に、マニュアルだけを見てやってもらいます。手が止まった所を直します。
上手い人のマニュアルが分かりやすいのは、最初から上手く書いているからではありません。出す前に1回、直しているからです。
作る前のコツ
書き始める前に決めることがあります。ここを飛ばすと、書いている途中で何度も手が止まります。
目的を1文で書く
マニュアルを作る目的は、大きく4つに分けられます。
| 目的 | こういう状態をなくしたい | マニュアルに入れるもの |
|---|---|---|
| 仕事を速くする | 毎回やり方を調べている。同じ質問に何度も答えている | 手順、よくある質問 |
| 品質を揃える | 人によって結果が違う | 判断の基準、できあがりの見本 |
| 属人化を防ぐ | 担当者が休むと止まる | その人しか知らない手順と理由 |
| ノウハウを残す | うまくいくやり方が共有されていない | コツ、失敗の例 |
4つ全部を狙うと、何でも載った分厚い資料になります。いちばん困っていることを1つ選び、「経理に異動してきた人が、月末の請求を1人で出せるようにする」のように1文で書きます。
目的の文は、あとで迷ったときの物差しになります。「この説明は載せるか」と迷ったら、目的に要るかどうかで決められます。
読む人と、読む場面を決める
読む人は1人に決めます。あわせて、いつ読むのかも決めます。
- 研修で、最初から順に読む
- 作業の途中で、分からなくなった所だけ開く
- 現場で、スマートフォンで開く
作業の途中で開くなら、目次から1回で目的の所に行けることが大事になります。現場でスマートフォンで見るなら、横に長い表は使えません。
載せる範囲を決める
その仕事の作業を全部書き出し、3つに分けます。
- 必ず載せる:全員がやる作業、間違えると影響が大きい作業
- できれば載せる:一部の人がやる作業、たまにやる作業
- 載せない:ほとんど起きない例外、管理者しか触らない設定
最初の版は「必ず載せる」だけで作ります。例外まで載せようとすると終わりません。
どの仕事から作るか迷うときは、次の順で選びます。
- 担当者が1人しかいない仕事
- 月に1回、年に1回しかやらない仕事
- 新人が最初に覚える仕事
- 質問がよく来る仕事
毎日みんながやっている仕事は、後回しで構いません。体が覚えているからです。
期限と、1回に作る量を決める
「手が空いたら作る」では進みません。出す日を決めます。大きなマニュアルは、1本ずつに分けて、1本ごとに期限を付けます。
「請求業務マニュアルを月末までに」ではなく、「請求書を発行する手順を金曜までに」です。小さく区切ると、終わりが見えます。
見出しを先に並べる
本文を書く前に、見出しだけを並べます。並べたら、その仕事を知っている人に見せます。「この作業が抜けている」「順番が逆」は、この時点で直すのがいちばん安く済みます。
見出しは、読む人がやりたいことで探せる言葉にします。「申請管理」ではなく「有給休暇を申請する」です。
型を先に決める
文字の大きさ、見出しの段階、画像の幅、印の色。書きながら決めると、ページごとにばらばらになります。先に決めて、最後まで変えません。何人かで分担するなら、決めた型を全員に配ってから始めます。
型を自分で決めるのが面倒なら、Word・Excel・PowerPointのマニュアル用テンプレートを土台にすると早く済みます。見出しや余白の決め方は、見やすいマニュアルのレイアウトとデザインにまとめています。
1枚のメモにまとめる
ここまでに決めたことを、1枚に書いておきます。記入例です。

このメモは、頼んできた上司にも見せます。「それなら例外の処理も入れてほしい」のような食い違いは、書く前に出しておきます。
作り方の全体の流れは、業務マニュアルの作り方で1ステップずつ説明しています。この記事では、ここから先、書き方のコツに絞ります。
書くときのコツ:文章の書き方を、直す前と直したあとで見る
マニュアルの文に、文章の上手さは要りません。要るのは、読んだ人が同じ動きをすることです。国の文書の書き方をまとめた文化審議会の「公用文作成の考え方」も、基本として「一文を短くする」「一文の論点は、一つにする」「三つ以上の情報を並べるときには、箇条書を利用する」を挙げています(公用文作成の考え方(建議))。マニュアルにもそのまま当てはまります。
ここからは、直す前と直したあとを並べます。例は、この記事のために作った架空のものです。

1文に動作は1つ
- 直す前:見積書を作成したら上長に確認を依頼し、承認されたらPDFにしてお客様にメールで送ります。
- 直したあと:
- 見積書を作る
- 上長に確認を頼む
- 承認されたら、見積書をPDFにする
- PDFをメールでお客様に送る
1文に動作が4つ入っていると、読む人は途中で作業に戻れなくなります。番号を振って分ければ、「いま3番」と戻る場所が分かります。
文は動詞で終える
- 直す前:ファイル名については、日付と取引先名を入れるようにしていただければと思います。
- 直したあと:ファイル名に、日付と取引先名を入れる。(例:20261013_山田商事_見積書.pdf)
丁寧な言い回しは、どこが指示なのかを隠します。マニュアルでは「入れる」「押す」「確かめる」で終えて構いません。です・ます調にするなら「入れます」で揃えます。混ぜないことが大事です。
誰が、いつ、何を、を省かない
日本語は主語を省いても通じます。マニュアルでは、省くと「それは自分がやるのか」が分からなくなります。5W1Hのうち、とくに抜けやすいのは「誰が」「いつ」「どこで」です。
- 直す前:請求書は月末までに確認して送付します。
- 直したあと:営業担当が、毎月25日までに請求書の金額を確かめる。経理担当が、月末の営業日に請求ソフトから送る。
1つの手順を5W1Hで書き出すと、抜けが見えます。記入例です。

全部のステップで6つを書く必要はありません。担当が替わる所、期限がある所、理由がないと省かれそうな所で使います。
あいまいな言葉を、数字と見本に替える
| 直す前 | 直したあと |
|---|---|
| 早めに提出する | 3営業日前の17時までに提出する |
| しばらく待つ | 画面が切り替わるまで待つ(10秒ほど) |
| 適量を入れる | 計量カップで200mL入れる |
| きれいに拭く | 白い布で拭き、布に汚れが付かなくなるまで拭く |
| 大きめの文字で | 14ポイント以上で |
| 必要に応じて上長に相談する | 金額が10万円以上のときは、課長に相談する |
| 丁寧に対応する | 最初に名乗り、お客様の用件を復唱する |
「必要に応じて」「適宜」「なるべく」が出てきたら、そこは書く人が判断を読む人に預けている所です。条件を書くか、見本を見せます。
判断の基準を書く
手順が分かれる所は、どちらに進むかの基準を書きます。
- 直す前:在庫が少なくなったら発注します。
- 直したあと:棚の箱が残り2箱になったら発注する。発注は1回に10箱。
基準が1つなら文で書けます。条件が2つ以上重なるなら、表にします。
| 金額 | 新規の取引先 | 既存の取引先 |
|---|---|---|
| 10万円未満 | 課長が承認 | 承認なしで発行 |
| 10万円以上 | 部長が承認 | 課長が承認 |
「場合によります」と書きたくなる所ほど、表にする価値があります。
理由を1文添える
- 直す前:送信する前に、宛先をもう1度確かめる。
- 直したあと:送信する前に、宛先をもう1度確かめる。同じ名字の別の会社の方に送ってしまった例があるため。
理由があると、読む人はその手順を省きません。手順が現実に合わなくなったときも、理由から自分で考えられます。全部の手順に付けると長くなるので、「省かれやすい手順」と「間違えると影響が大きい手順」に付けます。
専門用語と社内の言葉に、説明を付ける
- 直す前:締め後の修正は、赤黒で処理します。
- 直したあと:締め(その月の入力を確定すること)のあとに修正するときは、赤黒(元の伝票を取り消す伝票と、正しい伝票の2枚を入れること)で処理する。
社内で毎日使っている言葉ほど、専門用語だと気づけません。読む人に決めた1人が知らない言葉は、最初に出てきた所で説明します。数が多ければ、巻末に用語の一覧を付けます。
同じものを別の言葉で呼ばないことも大事です。「お客様」「顧客」「取引先」「クライアント」が混ざると、読む人は別のものだと受け取ります。1つに決めます。
画面や現物に書いてある言葉を、そのまま使う
- 直す前:保存ボタンを押す。
- 直したあと:「登録する」をクリック。
ボタンに「登録する」と書いてあるのに「保存」と書くと、読む人は画面から「保存」を探します。機械なら、ボタンの表示や色をそのまま書きます。
順番どおりに書く
- 直す前:「発行する」を押す。なお、押す前に金額と宛名を必ず確かめること。
- 直したあと:
- 金額と宛名を確かめる
- 「発行する」を押す
「なお」「ただし」「その前に」が出てきたら、順番が逆になっています。読む人は上から順にやるので、「なお」を読むころには押し終わっています。
注意は、その手順の手前に書く
取り消せない操作、けがにつながる作業、データが消える操作。注意は巻末にまとめず、その手順のすぐ手前に置きます。
- 直す前:(巻末に)注意事項:削除したデータは元に戻せません。
- 直したあと:(手順5の前に)**注意:次の操作は取り消せません。**削除する前に、手順4で取った控えがあることを確かめる。
強調は、こういう所にだけ使います。あちこちを太字や赤にすると、本当に大事な所が埋もれます。
最初に全体像を、最後に「できた状態」を書く
手順の前に、全体の流れを3〜5行で見せます。
この手順では、(1) 先月の実績を画面に出し、(2) 看護職だけに絞り、(3) CSVにして保存します。かかる時間は3分ほどです。
読む人は、いま自分が全体のどこにいるのかが分かります。
最後には、できた状態を書きます。「ダウンロードのフォルダに、kadou_202609.csv ができていれば完了」のようにです。ゴールが書いてあれば、読む人は自分で合っているかを確かめられます。人に聞かずに済むマニュアルになります。
例で見せる
説明より、例が早く伝わります。
- 記入の例:「備考欄の書き方(例:10/15 山田様より電話。納期を10/20に変更)」
- 良い例と悪い例:写真を2枚並べ、どこが違うかを1行で書く
- ケースの例:「お客様から『届いていない』と言われたとき」のように、場面を題名にして対応を書く
過去に実際にあったトラブルやクレームは、いちばん役に立つ例です。個人や会社が分からない形にして、「こうなった」「原因はここ」「いまはこうしている」の3行で載せます。
仕上げのコツ
見た目を揃える
文字の大きさ、見出しの段階、画像の幅、印の色。作る前に決めた型どおりになっているかを、最初から最後まで通して見ます。途中で作り方を変えた所が、たいてい1〜2か所見つかります。
色は3色までにします。本文の黒、印や強調の色、注意の色です。
文より、図・写真・画面で見せる
位置、形、色、動きは、文より絵のほうが早く伝わります。「右上の歯車のマーク」と書くより、画面に印を付けて見せます。
- 画面の操作:スクリーンショットに、押す場所の印を1つ
- 物の扱い方:手元の写真。良い例と悪い例を並べる
- 流れや分かれ道:箱と矢印の図
- 条件の組み合わせ:表
- 動きそのものが大事な作業:短い動画
画像1枚に印は1つにします。2か所押すなら、画像を2枚に分けます。
WordやExcel、PowerPointには、開いているウィンドウを直接貼れる機能があります。「挿入」タブの「スクリーンショット」です(スクリーンショットまたは画面の領域を挿入する)。
探しやすくする
読む人は、マニュアルを最初から読みません。知りたい所を探します。
- 題名と見出しに、読む人が検索しそうな言葉を入れる(「有休」で探す人がいるなら、「有給休暇(有休)を申請する」)
- 目次を付ける。見出しを読むだけで中身が分かるようにする
- 場面ごと、用途ごとに分ける。1冊にまとめない
- ファイル名の付け方を揃える(「業務名_作業名_更新日」など)
確認用のチェックリストを付ける
手順が長い作業、抜けると困る作業には、最後にチェックリストを付けます。本文を読み終えた人が、2回目からはチェックリストだけで作業できるようになります。項目の立て方は、チェックリストの作り方に書きました。
困ったときの行き先を書く
マニュアルに全部は書けません。書いていないことが起きたときに、誰に聞くかを書きます。人の名前だけだと異動で古くなるので、部署や共有の連絡先も書きます。「判断に迷ったら、作業を止めて経理課(内線000)に連絡する」のように、止めてよいことも書いておきます。
やったことがない人に試してもらう
仕上げでいちばん効くのがこれです。その作業をやったことがない人に、マニュアルだけを渡します。横で見て、口は出しません。
見るのは3つです。
- どこで手が止まったか
- どこで読み返したか
- 何を質問したそうにしたか
止まった所が、直す所です。試してくれる人がいないときは、1日置いてから、自分でマニュアルの文だけに従ってやってみます。書いていないことを1つでもやったら、そこが抜けです。
80点で出す
完璧になるまで出さないマニュアルは、いつまでも出ません。その間、現場はマニュアルなしで仕事をしています。試してもらって最後まで作業ができたなら、出します。足りない所は、質問が来たときに足します。
配ったあとのコツ
置き場所を1つにする
共有フォルダにも、チャットにも、メールの添付にもある。こうなると、どれが最新か分からなくなります。置き場所は1つに決め、ほかの場所からはそこへのリンクを貼ります。
置き場所は、その仕事をする場面から近い所にします。システムのマニュアルなら、ログイン画面の近くやブックマークです。現場で見るなら、スマートフォンで開けて読めるかを、実際に開いて確かめます。
見られる人の範囲も決めます。社外秘の手順やお客様の情報が入っているマニュアルを、誰でも開ける場所に置かないためです。個人情報は、そもそも画面や例に写さないのが安全です。
出したことを知らせ、使う場面を作る
置いただけでは、誰も気づきません。出したら知らせます。知らせたあとは、使う場面を作ります。
- 新人の研修で、口で教えずにマニュアルを渡してやってもらう
- 質問が来たら、口で答えずにマニュアルの場所を送る
- マニュアルに無い質問なら、答えたあとでマニュアルに足す
この3つを続けると、「分からなかったらまずマニュアル」が習慣になります。
直す人と、見直す日を決める
- 誰が直すか:人の名前ではなく、役割で決める(「請求の主担当」など)
- いつ見直すか:システムが変わったとき、担当が替わったとき、年度の変わり目
- 何を直したか:更新日と変えた所を、表紙か末尾に残す
直したら、変えた所を知らせます。「請求書の手順4が変わりました。送信の前に上長の確認が入ります」と1行で足ります。黙って直すと、古いやり方を覚えている人が気づけません。
現場の声を集める
マニュアルの間違いにいちばん早く気づくのは、使っている人です。気づいた人がすぐ言える道を用意します。マニュアルの末尾に「間違いや分かりにくい所は、ここに書いてください」と連絡先を載せるだけでも変わります。
よくある失敗と、その直し方

| 失敗 | こうなる | 直し方 |
|---|---|---|
| 1人だけで作る | 作った人の思い込みが残る。その人が忙しいと止まる | 見出しの段階で現場に見せる。出す前に別の人に試してもらう |
| 完璧を目指す | いつまでも出ない | 「必ず載せる」だけで出す。期限を決める |
| 1冊にまとめる | 長くて開かれない。目的の所が探せない | 作業ごとに分ける。1本は1つの作業 |
| 文だけで書く | 位置や形が伝わらない | 画面・写真・図を入れる |
| 細かすぎる | 大事な所が埋もれる | 読む人に決めた1人が知っていることは削る |
| 粗すぎる | 結局、人に聞く | 手が止まった所に、動作と判断の基準を足す |
| 作って満足する | 誰も存在を知らない | 知らせる。研修と質問への返事で使う |
| 更新されない | 画面や運用と違う。信用されなくなる | 直す人と見直す日を決める。更新日を書く |
| 現場と合っていない | 書いてあるとおりにやると困る | 現場の人に見出しと下書きを見せる。部署ごとの違いは分けて書く |
「細かすぎる」と「粗すぎる」は、どちらも読む人を決めていないことから起きます。新人向けに書いたマニュアルをベテランが読めば細かすぎ、その逆なら粗すぎます。1つのマニュアルで両方に合わせるのは難しいので、新人向けの本文と、慣れた人向けのチェックリストに分けます。
「更新されない」は、直すのが面倒なことが理由のことが多いです。画像を1枚差し替えるとレイアウトが崩れる。こういう作りだと、誰も触らなくなります。直しやすい形で作っておくことが、更新を続けるいちばんの近道です。
マニュアル作成にどれくらい時間がかかるか
「1本あたり何時間」という決まった数字はありません。作業の長さ、画面の数、読む人によって大きく変わるからです。代わりに、時間を左右するものと、自分で見積もる方法を書きます。
時間を左右する5つのこと
| 左右するもの | 長くなる条件 |
|---|---|
| ステップの数 | 多いほど長い。ほぼ比例する |
| 画像の数と作り方 | 1枚ずつ撮って貼って印を付けると長い |
| 書く人がその仕事を知っているか | 知らないなら、聞き取りの時間が加わる |
| 分かれ道と例外の数 | 条件が増えるたびに、確かめることが増える |
| 確認する人の数 | 見る人が多いほど、待ち時間と直しが増える |
自分で見積もる方法
見積もりは、小さく作って計るのが確実です。

- その作業のステップを数える(見出しを並べた時点で、おおよそ分かります)
- 最初の3ステップを、本番と同じ作り方で作り、かかった時間を計る
- 1ステップあたりの時間に、ステップの数を掛ける
- 前後の時間を足す(作る前に決める時間、人に試してもらう時間、直す時間)
計算の例です。3ステップに12分かかったなら、1ステップ4分です。全部で20ステップなら、本文に80分。これに、作る前のメモ、試してもらう時間、直す時間を足します。
やってみると、時間の大半が「撮る・貼る・印を付ける・書く」のくり返しに使われていることが分かります。速くしたいなら、ここを減らすのがいちばん効きます。
マニュアルは何で作るか
| 道具 | 向いているマニュアル | 気をつける所 |
|---|---|---|
| Word | 文章が多いもの。目次を自動で作れる。印刷して配るもの | 画像を足すと位置がずれやすい |
| Excel | 一覧、チェック表、条件の表 | 印刷で切れやすい。長い文章は読みにくい |
| PowerPoint | 1ページ1ステップで、画像を大きく見せるもの | ページが増えると探しにくい |
| Googleドキュメント・スプレッドシート | 何人かで同時に直すもの。URLで配るもの | 細かいレイアウトは苦手 |
| 動画 | 手の動きや機械の扱い方など、動きが大事なもの | 知りたい1か所を探しにくい。直すときは撮り直し |
| 社内Wiki・ナレッジ共有の道具 | 数が多く、検索して使うもの | 置くだけでは整理されない。書き方の型が要る |
| マニュアル作成の専用ツール | 画面の操作など、画像の多いもの。よく変わるもの | 道具を入れる手間がある。費用がかかるものもある |
道具を選ぶときに見るのは3つです。
- 直しやすいか:1か所を直すのに、全体を作り直さなくて済むか
- 読む場所で開けるか:現場でスマートフォンで読むなら、そこで読める形か
- 見せる範囲を決められるか:見せてよい人だけに見せられるか
生成AIに下書きを作らせる方法もあります。見出しの案を出す、箇条書きのメモを文に整える、言い回しを揃える、といった所で使えます。ただ、AIはあなたの職場の手順を知りません。手順そのものは、実際にやって確かめたものを渡します。出てきた文は、必ず作業と照らして読みます。
数が多い、専門性が高い、社内に時間がない。こういうときは、制作を外の会社に頼む手もあります。頼む場合でも、出したあとに直すのは社内の人です。直せる形で受け取ることを、最初に決めておきます。
画面の操作を説明するマニュアルの作り方は、操作マニュアルの作り方で、項目と目次の見本から説明しています。1つの作業を順番どおりに書く資料なら、手順書の作り方が合います。
時間がかかる所を、道具に任せる
「撮る・貼る・印を付ける・書く」を道具に任せると、どうなるか。実際に作ったものを見せます。
ReQuill は、Chromeに追加して使う無料の拡張機能です。記録を始める、いつも通りに操作する、記録を止める。これでマニュアルができます。
経営ダッシュボードのサンプル画面(架空のデータ)で、「先月の職員別の稼働率を、看護職に絞ってCSVにする」操作を記録しました。やった操作は、タブを選ぶ、期間を選ぶ、職種を選ぶ、ボタンを押す、の4つです。
できたマニュアルのステップを、そのまま載せます。画像に手は加えていません。




この記事のコツと比べます。
| この記事のコツ | できたマニュアルでは |
|---|---|
| 1文に動作は1つ | 1ステップに操作が1つになっている |
| 文は動詞で終える | 「『先月』をクリック」と動詞で終わっている |
| 画面の言葉をそのまま使う | 「職員別」「先月」「CSVダウンロード」は画面の表示のまま |
| 画像1枚に印は1つ | 押した場所だけに印が付いている |
| 最後に「できた状態」を書く | 「これで完了です」の画面が入っている |
書き方のコツのうち、形で決まるものは道具が揃えてくれます。
人が書く所は残る
自動でできるのは「どこを押すか」までです。この記事で書いたコツのうち、次のものは人が足します。足す場所は編集の画面です。下の画像は、別のマニュアル(Googleフォームで社内勉強会に申し込む)の編集の画面です。

- 理由と判断の基準:「なぜ先月なのか」「どの職種を選ぶのか」は、「補足を追加」に書きます
- 誰が、いつ:「毎月3営業日までに、管理者が」のような決まりも補足に書きます
- 要らないステップ:間違えて押した操作もステップになります。「削除」で消します
- 写ってはいけないもの:入力した文字や画面のデータは、そのままスクリーンショットに写ります。架空のデータで操作するか、「隠す」で範囲を選んで塗りつぶします
- 表紙:題名と概要はAIが下書きします。目的と読む人が伝わる文になっているかを見て、直します
手を動かす時間が減った分を、理由と判断の基準を書く時間に回せます。ベテランの頭の中にしかない情報は、道具には書けません。
記録できるのは、パソコンのChromeで開く画面だけです。デスクトップのアプリ、機械、紙の作業は記録できません。そういう作業は、写真や手書きの図と文で作ります。画面の操作が混ざる仕事なら、その部分だけをReQuillで作り、URLを本体のマニュアルに貼る使い方ができます。受け取った人は、登録なしで読めます。PDFにもできます。
マニュアル作成のコツ:チェックリスト
段階ごとに、ここまでのコツを並べます。
作る前
- 目的を1文で書いた
- 読む人を1人に決めた。読む場面も決めた
- 載せる範囲と、載せないものを決めた
- 出す日を決めた
- 見出しを並べ、その仕事を知っている人に見せた
- 文字・画像・印の型を決めた
書くとき
- 実際にやりながら書いた
- 1文に動作は1つ。番号を振った
- 文が動詞で終わっている
- 誰が、いつ、が書いてある
- 「早めに」「適宜」を、数字や条件に替えた
- 分かれ道に、判断の基準がある
- 省かれやすい手順に、理由がある
- 読む人が知らない言葉に、説明がある
- 注意が、その手順の手前にある
- 最初に全体の流れ、最後に「できた状態」がある
仕上げ
- 見た目が最初から最後まで揃っている
- 位置や形は、画面・写真・図で見せている
- 題名と見出しで、中身が探せる
- 困ったときの行き先が書いてある
- やったことがない人が、マニュアルだけで最後までできた
配ったあと
- 置き場所が1つになっている
- 出したことを知らせた
- 直す人と、見直す日が決まっている
- 更新日が書いてある
よくある質問
マニュアル作りが上手い人の特徴は?
読む人を1人に決めていること、仕事を動作まで分けていること、実際にやりながら書いていること、理由と判断の基準を書いていること、出す前に人に試してもらっていること。この5つです。文章の上手さではなく、作る手順の違いです。手順なので、真似できます。
マニュアル作りは大変ですか?
大変です。理由は4つあります。慣れた人ほど書くことが見えない。画像を撮って貼る手作業が多い。どこまで書くかが決まらず終わらない。作っても読まれない。範囲と期限を先に決め、手作業を道具に任せ、人に試してもらえば、かなり軽くなります。
マニュアルは何で作るのが良いですか?
文章が多いならWord、表やチェック表ならExcel、1ページ1ステップで見せるならPowerPoint、何人かで直すならGoogleドキュメントが向いています。画面の操作を説明するもので、ステップが多いか何本も作るなら、操作を記録して自動で作る道具が速くなります。どれを選ぶときも、あとで直しやすいかを先に見ます。
マニュアル作成にどれくらい時間がかかりますか?
決まった時間はありません。ステップの数、画像の作り方、書く人がその仕事を知っているか、例外の数、確認する人の数で変わります。見積もるには、最初の3ステップを本番と同じ作り方で作って時間を計り、ステップの数を掛けます。そこに、作る前に決める時間と、試して直す時間を足します。
マニュアルと手順書は何が違いますか?
マニュアルは、仕事の全体を扱います。目的、流れ、判断の基準、担当まで入ります。手順書は、その中の1つの作業を、はじめから終わりまで順番に書いたものです。現場では区別せずに呼ぶことも多いので、名前より、読んだ人がその仕事をできるかで考えれば足ります。
文章が苦手でも作れますか?
作れます。マニュアルの文は、短く、動詞で終わり、順番どおりであれば足ります。うまい言い回しは要りません。迷ったら、番号を振って1行に動作を1つずつ書きます。位置や形は、文で説明せずに画面や写真で見せます。
マニュアルはどこまで細かく書けばよいですか?
読む人に決めた1人が、迷わず手を動かせる細かさです。その人が知っていることは書かず、知らないことは省かずに書きます。決めきれないときは、粗めに書いて人に試してもらい、手が止まった所だけを細かくします。
作ったマニュアルが読まれません。どうすればよいですか?
置き場所、長さ、古さの3つを見ます。置き場所が分からないなら1つにまとめ、仕事の場面から開けるようにします。長いなら作業ごとに分けます。古いなら直して更新日を書きます。そのうえで、質問が来たら口で答えずにマニュアルの場所を送ります。